いま必要なのは「ネガティブ・ケイパビリティ」(作家・帚木蓬生さん)

 先週、帚木蓬生の本をよく読んでいることを知っているミキコちゃんから「帚木蓬生さんのネガティブ・ケイパビリティという本、持ってますか?」とラインが届いた。


 確かに、精神科医であり作家でもある帚木蓬生は、僕の好きな作家の一人である。
 新田次郎文学賞『水神』吉川英治文学賞『守教』を始め、『国銅』、『天に星 地に花』、『襲来』など、読んだときの感動が今でも甦る小説が何冊かある。
 しかし、小説以外の著書は読んだことがない。


 このネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に絶える力』は、どんな本なのだろうと、書店で手に取りページをめくって立ち読みしてみたら、「なんだ、これは?」と惹きつけられる内容。早速、読んでみた。

               

 精神科医でもあり作家の帚木さんは、──いま、現代人に最も必要と考えるのは「寛容」と「共感する」こと、それらが成熟する過程で大切なことは、容易に答えの出ない事態に耐えうる能力(ネガティブ・ケイパビリティ)である──と提唱する。

 帚木さんは、現代社会が求め、いつも人々が念頭に置いて必死に求めているのはポジティブ・ケイバビリテだが、ここには大きな落とし穴があり、「分かった」つもりの理解が、ごく低い次元にとどまってしまい、より高い次元まで発展しない。表層の「問題」のみをとらえて、深層にある本当の問題は浮上せず、取り逃してしまうという。
 「しかし私たちの人生や社会は、どうにも変えられない、とりつくすべもない事柄に満ち満ちています。むしろそのほうが分かりやすかったり処理しやすい事象よりも多いのではないでしょうか。 だからこそ、ネガティブ・ケイパビリティが重要になってくるのです」と指摘する。
 さらに、人間の脳には「分かろう」とする性質があるため、ネガティブ・ケイパビリティをもつことは難しい。しかし、安易に「分かろう」とする姿勢をやめ「ネガティブ・ケイパビリティを通して、発展的な深い理解をめざすことが重要となる」と力説する。

 特にそれは現代社会の営みの中で、終末期医療の現場や精神科医の診療だけでなく、私たちの日常生活、学校などの創作活動や教育現場でも「いま、求められる」と、「ネガティブ・ケイパビリティの大切さ」を提唱している。
 そんな内容の、何か、大切な生き方を示唆することを含んだ本だった。

 また、この本は帚木蓬生さんの精神科医としての、作家としての「原点」を感じさせる内容であり、「どうして帚木蓬生という作家は、このような作品を描けるのだろうか」と常々疑問に思っていたのだが、それを、ちょっと何かが見える気分になった著書だった。(むろん、帚木がいうように早計に分かったとしないで・・・)。