森絵都著『 みかづき 』を読む

 この森絵都さんの『 みかづき 』は、昨年の本屋大賞にノミネートされ2位だった本だ。
 本好きの友人からも「読んだらいいよ」と言われていて、何となく気になっていたが、ついつい機会を逃していた。
 先日、出張前に寄った書店に文庫新刊として平積みされていたのを見つけて、その機会を得た。
      

 600ページを越す文庫本にしては分厚いが、実に読み応えのある物語だった。
 昭和30代から高度経済成長期を経て2000年代後半まで、学習塾を巡っての教育に奮闘する3世代の波瀾万丈の話だ。
 同時代を、同世代で生きた僕としては、ひとつ一つの出来事が現実のこととしてスッと理解できたし、共感することも多々あって、文部省の教育行政と塾との駆け引きなどに、うなずきと納得を繰り返しながら読んだ。

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 さらに、この物語に感動を覚えるのは、時代によって変化する文部(文科)省の教育方針や、社会の要請で変化する塾経営事情に、登場人物たちが「学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在」として、迷いながらも、理想とする教育の夢を求め、それに一生懸命に生きている姿が清々しいからだ。
 教育界の戦後史と、現在、顕著になりつつある格差社会における教育格差問題と、そして、塾の運営にかかわる3世代の登場人物の成長過程と、その家族愛の物語としても、せひ、一読をお薦めする著書だ。
 来春1月末には、高橋一生などの出演でテレビドラマ化されて放送がスタートすると、文庫の帯に記されている。それも楽しみだ。